イタリアでの在外研究(佐藤公美)

 2018年3月末から1年間、イタリアでの在外研究で二つの研究に取り組んできました。前半はアルプス南麓のトレンティーノ=アルト・アディジェ州の古文書館で古文書を読み込む日々で、中心は15世紀メラーノ(またはメラン)の一群の公証人登記簿とその関連史料。後半は中部イタリアのマルケ州フェルモ市を中心に14世紀の教会国家での反乱を研究し、様々な史料に出会う幸運にも恵まれました。いずれも日々史料に触れる喜びの中に「古文書館員なくして歴史家なし」と繰り返し思う日々。地道な史料保存と活用に取り組みつつ、研究者達への助力を惜しまない古文書館員の方々へに感謝し、きっとよい研究成果でお返しできたらと思っています。(佐藤公美)
  ※写真:フェルモ市の丘から海の見える眼下の丘陵地をのぞむ風景

2018年度卒業論文・正井なず菜(稲田ゼミ):『歴代宝案』から見る琉球王国の貿易

 『歴代宝案』とは、琉球王国の外交文書をまとめた歴史史料です。この『歴代宝案』の訳注本第1冊に記載されている、初めて明朝への朝貢物が登場する1425年から、明朝が滅亡する1644年までの琉球王国から明への朝貢物を表にまとめました。その内容から、琉球王国がどのような国々と貿易を行っていたのか、その貿易関係の変化と広がりなどを考察しました。琉球王国の貿易の形態を、捉えることができたのではないかと思っています。しかし、明朝以外の周辺諸国との文書を収録した『歴代宝案』の第2冊も参考にしましたが、交易品の表を作る時間がありませんでした。この第2冊の交易品の内容も併せれば、より深く考察ができるのではないかと考えています。

2018年度卒業論文・乾訓子(佐藤(公)ゼミ):ポグロムと「反ユダヤ感情」-1940年代のポーランドの実例を通して-

 第二次世界大戦後、ポーランドの各地でユダヤ人虐殺事件が多発した。これらの事件は、戦時中にポーランドを支配したナチスの影響による道徳的退廃や、ポーランド人が戦時中にナチスと共謀し犯した略奪や虐殺などの罪がユダヤ人の存在により暴かれることへの恐れに起因としたものだと考えられた。本論文では、このような原因と虐殺の繋がりを見直すべく、戦時中から戦後にかけて起こった3つの事件の事実、証言と特徴をまとめた。結果として、虐殺を単一の要因、例えば「反ユダヤ感情」や「道徳的退廃」などでは説明することはできず、特定の時空間に作用する複合的な状況が虐殺を引き起こしたと考える方が自然であった。これらの事件は、事件を取り巻く複合的状況を丹念に解明することがこれからの歴史認識論争の課題を指し示した。

イェドバブネ事件追悼碑