第二次世界大戦後、ポーランドの各地でユダヤ人虐殺事件が多発した。これらの事件は、戦時中にポーランドを支配したナチスの影響による道徳的退廃や、ポーランド人が戦時中にナチスと共謀し犯した略奪や虐殺などの罪がユダヤ人の存在により暴かれることへの恐れに起因としたものだと考えられた。本論文では、このような原因と虐殺の繋がりを見直すべく、戦時中から戦後にかけて起こった3つの事件の事実、証言と特徴をまとめた。結果として、虐殺を単一の要因、例えば「反ユダヤ感情」や「道徳的退廃」などでは説明することはできず、特定の時空間に作用する複合的な状況が虐殺を引き起こしたと考える方が自然であった。これらの事件は、事件を取り巻く複合的状況を丹念に解明することがこれからの歴史認識論争の課題を指し示した。