2024年度卒業論文・仲畑天晴(東谷ゼミ):最後の三田藩主九鬼隆義の教育構想の形成とその背景-徳島藩との関係性を中心にー

最後の三田藩主九鬼隆義は藩教育に洋学を取り入れたことで知られる。明治以降も神戸初の貿易商社・志摩三商会の経営に加え、神戸女学院を設立した。本論文では、九鬼隆義が教育に注力した背景として、江戸時代後期、三田藩と徳島藩との間で学者同士の繋がりがあり、教育面でお互いに影響を受けていたことに関し3点を指摘した。①両藩とも洋学への理解が深く、同時期に長崎へ藩医を送って学ばせており、徳島藩では18世期末に医師学問所が設立されている。②三田藩で藩校造士館が建てられたのは、両藩が婚姻関係を結んだ後であり、親族大名を背景とした学問的な影響があった。③三田藩の洋学者川本幸民の私塾で徳島藩の人物が学んだり、川本が幕府の蕃書調所に出仕した際、同僚に徳島藩の高畠五郎がいるなど、川本を起点とした人的ネットワークがあった。明治以降、阪神間の教育における九鬼隆義の事蹟は、三田藩時代のネットワークとその経験が大きく影響していた。

①九鬼隆義が設立に関わった神戸女学院の前身である女学校は神戸山本通に建てられた。
出典:『神戸女学院百年史総説』 (1976)

②旧三田藩士達によって作られた志摩三商会は神戸元町周辺に建てられた。
出典:「三田藩の神戸進出-志摩三商会から白州商店へ」(『島の文化史』(2009))

第5回歴史総合・地理総合研究会開催

2025年3月22日(土)、第5回歴史総合・地理総合研究会が、3‐22教室で開催されました。今回は、これまで要望の強かった「歴史教育の中高連携」をテーマに掲げました。主報告は田中弘美先生(滝川第二中学校・高等学校)にお願いしました。中高一貫校ならではの歴史教育の実践と、その先進性について理解することができました。コメントは、本学科出身の折野紘一朗先生(兵庫県立須磨友が丘高校 )、 古賀崇之(倉敷市立味野中学校)のお二方にお願いしました。中高それぞれの現場での成果と課題が率直に報告されました。その後、対面・ズーム合わせて20名近い方々に熱心にご議論いただき、大学も含めて歴史教育の連携を深めることの重要性と今後の課題について、認識を新たにしました。(教員・高田 実)

2024年度卒業論文・福重湖雪(髙田ゼミ):近代日本におけるクリスマスの定着と贈答慣行の変化 ー「自発的贈与」の誕生と「義務的贈与」との共存-

本論文は、近代日本におけるクリスマスの定着過程と、それが日本の伝統的な贈答慣行に与えた影響を分析した。明治大正期の『風俗画報』『主婦の友』「読売新聞」「朝日新聞」などの一次資料を分析した結果、1910年代には都市部でクリスマスが宗教行事ではなく、家庭内の贈答文化として浸透していたことが明らかになった。また、歳暮が「社会的義務」として贈られるのに対し、クリスマスプレゼントは「自由な贈与」として定着した点を、モースの『贈与論』を基に考察した。義務的贈与と自由な贈与は異なる形をとりながらも、どちらも「人と人とのつながり」を深めるという本質を共有し、現代においても形を変えながら共存していることを論じた。

「クリスマスプレゼント」 (出典)『主婦の友』第2巻、12月號、1918年、78-79頁

2024年度卒論発表会

今年も卒論発表会が開かれた。2025年3月4日、3‐22教室で7名が卒論の概要を発表した。学生、教員合わせて25名が参加し、熱い議論を交わした。2年生の私にとって、この発表会への参加は初めてであったが、先輩の発表する卒業論文はどれも興味深く、話しを聞いていく中で提起された問題点や結論を考えることができとても楽しかった。最後に疑問点について質問できる時間が設けられ、私達後輩と4回生との間の質疑応答はとても興味深いものであった。これから自身の研究を進めていく中で、困るであろう史料の使い方や調べ方、卒業論文の書き方など、勉強になった点が多く、大変有意義な発表会であったと思う。(2回生・加島昌昇)