甲南大学文学部歴史文化学科に所蔵されてきた「和紙コレクション」の整理及び評価を行った。この「和紙コレクション」は和紙184点333枚及び関連資料群から構成され、既に詳細な経歴が不明となってしまった資料群である。学科では和紙研究者として知られた寿岳文書が本学在籍時に残したものとも伝わっていた。関連資料群を手掛かりに調べた結果、本学文学部教授・和田邦平とそのゼミ生・瀧川吉則の両名が基幹となって収集したことや、その収集時期が昭和45(1970)年頃であったことを推測した。当時は民芸運動に後押しされた伝統工芸の保存運動が盛んな時代であった。こうした背景を踏まえつつ「和紙コレクション」に対して、資料群全体及び和紙資料一点ずつを評価した。そして整理作業の結果、目録を完成させることができた。今回の成果が、これからの保存や参考資料として活用されることを期待している。
日: 2024年3月14日
2023年度卒業論文・畑匡洋(鳴海ゼミ):兵器を伴う忠魂碑の景観形成
本論では「兵器を伴う忠魂碑の景観」を研究対象として、その景観に関係する史料群から景観作成の社会システムと広がりを明らかにすることを目的とした。はじめに本論で使用した「忠魂碑と兵器」の史料群の史料論的視角からの考察、そしてこの景観に使用される兵器が処分される兵器=「廃兵器」であることを明らかにした。次にこの史料群の考察を基に、廃兵器が忠魂碑に備え付けられていく時の地域社会や海軍機関の働きやその実際のプロセスを明らかにした。この景観が出来上がり広がっていく要因として、社会制度面での忠魂碑と廃兵器の関係性、在郷軍人会の働き、効率的で合理的な仕組みの社会システムの構築、が背景にあったことを指摘した。なお、本論は「兵器を伴う忠魂碑の景観作成」の前提知識・条件として位置づけられる。
2023年度卒業論文・山城文乃(中町ゼミ):イランのアジール—ゴム市におけるバスト慣習について
イランにおける聖域避難の慣習「バスト」を、ハズラテ・マースーメ廟擁する聖地ゴムに限定することで、時代ごとの姿を明らかにし、また都市の発展と関連づけて考察した。慣習は古く13世紀イルハン朝期にその事例が史料上に見られ、その後もカージャール朝の時代までは確実に引き継がれていた。避難を成立させる聖域の不可侵性はイラン地域を支配した歴代の王朝に認知され、またシーア派聖地として聖廟を含め、ゴム市には多大な後援が行われた。これを背景とする都市の発展とバスト慣習の継続及び流行は相互作用していたと論ずる。