2021年度卒業論文・田口智子(髙田ゼミ):イギリスにおける精神病院とコミュニティ・ケア 1890-1930-揺れ動く正気と狂気の境界線-

イギリスでは、18世紀後半からの都市化に伴い、精神疾患の治療の場となった精神病院は正気と狂気の境界線を引く役割を担った。しかし、精神病院の過剰収容問題に加え、第一次世界大戦時の戦争神経症の多発により、施設による線引きに限界が訪れた。そこで、戦後にコミュニティ・ケアが導入され、地方自治体やボランタリー団体、ソーシャル・ワーカーなどが精神医療に参入した。その結果、教育や労働といった新たな視点からの線引きが行われるようになり、境界線が複雑化した。狂気に病名がつけられ、細分化されることで、軽い不調でも精神疾患に当てはめることが可能となり、正常(正気)の範囲が縮小されていったのではないかと考える。

ベスレム精神病院
[典拠] Sarah Rutherford, The Victorian Asylum, Shire, 2008, p. 9より引用。

2021年度卒業論文・栫 晴哉(髙田ゼミ):マルキ・ド・サドの幸福論-道徳観念と快楽原則からみる善悪の彼岸-

18世紀末に起こったフランス革命の、黎明から終焉までの全てを生きた文学者マルキ・ド・サド。「サディズム」の由来となったサドは、性倒錯や残虐性、暴力といった「悪」を描く「夜の太陽」として従来研究されてきた。しかし本論文では、文学と現実で起こった革命の交差点にサドを位置付け、彼の言説が新旧の秩序を繋ぐ中間的存在であったことを主張する。その立証のために、サドの略歴と言説に時代背景を照合し、社会が「幸福」という新たな理念へ向かった道程を明らかにした。そして、「性と哲学」、「美徳と悪徳」の二項対立のテーマから、フランスの政治文化において、いかにしてサドが新たな時代の「日の出」となったかを論考した。


サド侯爵、王政復古の幻想画
[典拠] W.レニッヒ/飯塚信雄訳(1983)『サド』理想社、55頁より引用。

2021年度卒業論文・三宅正晃(出口ゼミ):街道を歩く人々―旅人にとっての東海道とは何か―

私は高校時代から歩くことが好きだったのですが、大学3年になりより長い距離を歩くことが好きになりました。その中で全長496キロの東海道を14日かけて歩いたのですが、道中では私のように東海道を歩いている旅人を何人か見かけ、「この人たちは何故東海道を歩いているのだろう?」という疑問が生まれ、そこから始まったのが私の研究です。研究方法は、①中世~近代の旅人が東海道を歩いた際に記した紀行文を読む、②フィールドワークとして実際に東海道を歩き、自ら体験すること、③そこで出会った旅人にお話を伺うことです。これにより「現代の旅人はなぜ東海道を歩くのか」、「現代の旅人にとっての東海道とは」を明らかにしたいと考えました。紀行文からはかつての東海道は伊勢参宮などの信仰が重要であったことがわかりました。フィールドワークからは現代の旅人は信仰的な要素はなく、健康面で歩かれている方が多くいました。また、東海道は他の街道と比べても平坦・往来するための交通機関の充実など、良い意味で「丁度良い」街道であったということがわかりました。本研究では11人の東海道を歩く旅人にインタビューをしました。5分以内で終わる短いインタビューでしたが、非常に有意義な時間を過ごすことができ、人との出会いの大切さを学ぶことができました。一期一会という言葉がありますが、街道歩きはまさしくこの言葉そのものだと思います。私はこれからも街道歩きという趣味を続けていくので、旅を通じて多くの人に出会うと思います。また日常生活においても、多くの人に出会うでしょう。そのような人との出会いを大事にするということを学ぶことができました。

撮影日:2021年10月7日
東海道歩きは京都の三条大橋か東京の日本橋から始まります。写真は三条大橋ですが、旅の始まりには『東海道中膝栗毛』の主人公である弥次さんと喜多さんが出迎えてくれます。

「甲南大学の学芸員養成課程」展の開催(ギャルリー・パンセにて3月15日まで)

この「甲南大学の学芸員養成課程」 展は、甲南大学開学70周年記念事業の一環として開催しています(甲南大学5号館1階ギャルリー・パンセ・2022年3月15日16時まで)。本学の学芸員養成課程は、歴史文化学科が開設された2001年に始まりました。この展示では、学芸員養成課程をめぐる講義のうち、博物館実習ⅡとⅢにおける成果の一部を紹介します。博物館実習Ⅱでは、甲南大学博物館を立案するという企画に取り組み、受講生らの考えたプランを、また、博物館実習Ⅲでは、受講生がそれぞれに経験した館園実習の内容を表すポスターをいくつか掲示しています。そのほか、関連する活動として白鶴美術館との連携についても紹介します。短い会期ですが、ぜひ見にきてください。(文責・鳴海邦匡)

2021年度卒業論文発表会に参加して

私は、2022年2月25日(金)に523教室で行われた卒業論文発表会に参加しました。オンラインも含めて25名が参加するなか、5名の4回生が卒論内容を報告するとともに、後輩からの質問に答えました。どの発表もよく調べられた内容で、すごいなと感じるとともに来年度に卒論を執筆する自分としてはプレッシャーに感じました。特にかつて3年生時のゼミ報告で聞いたものが、卒論として緻密な形になったことに驚きました。また、自分の研究内容に近い卒論も報告されていたので、とても参考になりました。(3回生・伊藤啓太)

歴かふぇ12:西田祐子先生

第12回の歴かふぇ(2022年1月13日)は、西田祐子先生による、唐代史史料の編纂についてのお話でした。その内容は、唐の正史のひとつとしてこれまで使用されてきた『新唐書』が、編纂の過程で『旧唐書』などの書物の引用が混ざったり、順番があべこべになってしまっているというものでした。研究のもととされてきたものが、『新唐書』を編纂した宋時代の著者の認識が被さるかもしれないという発見にとても驚きました。新たな知見が得られて勉強になりました。(3回生・出渕優⾐)

灘の酒蔵めぐり@鳴海ゼミ

2021年12月24日、鳴海ゼミでは、活動の一環として、灘の酒蔵の菊正宗酒造記念館と白鶴酒造資料館に行きました。菊正宗酒造記念館では、日本酒の作り方や酒樽の製造について、使用されていた道具を示しながら職員の方に解説して頂きました。道具をうまく使いながら、全て人力で行っていた当時の様子が知れて、とても面白かったです。 白鶴酒造館では、実際に稼働していた酒蔵での見学だったため、工程から杜氏・蔵人の生活まで見学することが出来ました。両館では色々な日本酒の試飲もできました。私も含め、日本酒が初めての学生もいましたが、とても新鮮で楽しい時間でした。(2回生・前田彩花)

歴かふぇ11:尾﨑真理先生

2021年12月17日、第11回歴かふぇを歴文ラボラトリにて開催しました。講師の尾﨑真理先生は「下張り文書と江戸時代の女性」というタイトルで、下張り文書として発見された緒方洪庵の妻・八重の手紙をもとにお話しされました。手紙には洪庵亡き後、懸命に動く八重の姿や心の内が書かれています。しかしこの手紙は下張り文書として使われたため、本来なら決して表に出るものではありませんでした。これを踏まえて「裏で動いている女性の姿を文献から読み取ることは難しい。しかし、隠れているだけでそこに“女性”はいるのではないだろうか。」と話されました。この言葉は、ジェンダー史を研究する私にとって、とても印象深いものでした。(3回生・徳留亜美)

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