FROM SOLUBILIZATION
難水溶性成分を、簡単な混合操作で水中へ。
最初の研究では、あらかじめ調製したr-glucan NPsとゲスト分子を中性水溶液中で混合することで、難水溶性成分を取り込み、水中に分散できることを示しました。クルクミンでは、一般的な低分子ホストであるγ-シクロデキストリンと比較して長く保持され、r-glucan NPsならではの徐放性が確認されました。
RESEARCH
生物が持つ物質・構造・仕組みに学び、分子と材料を設計することで、溶解、包接、活性化、安定化といった水中の現象を制御します。
RESEARCH CONCEPT
甲元研究室では、天然多糖の高次構造や、極限環境生物が利用する低分子化合物を手がかりに、既存の分子・材料にはない機能を引き出します。
研究対象は多糖、酵素、核酸、機能性低分子など多岐にわたりますが、共通するのは、分子構造と水中でのふるまいを結びつけて理解し、その知見を新しい材料や添加剤、反応・分析技術へ展開することです。
POLYSACCHARIDE NANOMATERIALS
β-グルカンを「溶かす、運ぶ、働く」新しい材料へ。
食品や化粧品に利用したい機能性成分には、水に溶けにくく、安定な水系製剤として配合することが難しいものが数多くあります。甲元研究室では、黒酵母 Aureobasidium pullulans が産生するβ-1,3-1,6-グルカンに着目し、その高次構造をいったん解離させた後、中和によって再構成することで、水中に分散する再生β-1,3-1,6-グルカンナノ粒子(r-glucan NPs)を開発しています。
r-glucan NPs は、化学修飾や架橋剤を用いずに形成でき、調製後のナノ粒子と難水溶性成分を混合するだけでゲスト分子を取り込めることが特徴です。クルクミン、all-trans-レチノイン酸、レバミピドなどをモデルとして、水中での分散性向上と長期保持を明らかにしてきました。
FROM SOLUBILIZATION
最初の研究では、あらかじめ調製したr-glucan NPsとゲスト分子を中性水溶液中で混合することで、難水溶性成分を取り込み、水中に分散できることを示しました。クルクミンでは、一般的な低分子ホストであるγ-シクロデキストリンと比較して長く保持され、r-glucan NPsならではの徐放性が確認されました。
TO CONTROLLED RELEASE
β-グルカンを分子量ごとに分画してナノ粒子を調製すると、構成する多糖鎖の分子量によってクルクミンの包接量と放出速度が変化しました。高分子量のグルカンほどゲストを多く保持し、よりゆっくり放出する傾向を示し、ポリマー材料に特徴的な内部・表面間のゲスト移動が徐放に関与すると考えられました。
TO FUNCTIONAL DELIVERY
2026年のNutraceuticals論文では、難水溶性フラボノイドであるケルセチンをr-glucan NPsへ取り込みました。見かけの水中分散濃度は遊離ケルセチンの7.11 µMに対して1,620 µMまで向上し、光照射やpH 6.8での安定性も改善しました。さらに、水中で到達可能な濃度域では高いORAC値を示し、Caco-2細胞を用いた評価でも細胞抗酸化活性の向上が確認されました。
TOWARD MOLECULAR DESIGN
2026年にCarbohydrate Polymersへ掲載された研究では、resveratrolを用いた溶媒交換過程の解析に加え、スチルベン、アゾベンゼン、桂皮酸誘導体からなる32種類の芳香族化合物を比較しました。その結果、r-glucan NPsは固定した疎水性空洞ではなく、水がアクセスできる柔軟な水和多糖マトリクスとして振る舞い、極性や水素結合能が取り込みに有利に働く一方、過度な疎水性は自己会合や析出を促して不利になることが示されました。こうした構造―物性相関は、食品・化粧品に利用する機能性成分を分子構造から選択するための設計指針につながります。
FROM DISPERSION TO FUNCTION
Journal of Biotechnology, 420, 124–135 (2026) では、r-glucan NPsを凍結乾燥して再分散可能なナノ粒子粉末へ変換しました。粉末化後も高分子量と局所的な三重らせん構造を保ち、水へ加えるとナノサイズへ再分散し、難水溶性ゲストの包接能も維持されました。さらにJ774A.1マクロファージを用いた評価では、超音波処理で可溶化したβ-グルカンとは異なるTNF-α応答を示し、単なる水溶化だけでなく、ボトムアップで再構成したナノ構造そのものが生体応答に関与することが示されました。保存・輸送・再調製のしやすさを備えた粉末材料として、食品・化粧品などへの実装を見据えています。
REPRESENTATIVE PAPERS
論文の掲載図版は転載せず、研究内容をもとに作成したオリジナルの模式図で概要を示しています。
クルクミンなどの難水溶性成分を、調製済みのr-glucan NPsとの簡単な混合によって水中へ分散。クルクミンでは長期保持・徐放性も明らかにしました。
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多糖鎖の分子量によってクルクミンの包接量と放出速度が変わることを示し、ポリマーナノ粒子内部でのゲスト保持・移動を考察しました。
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ケルセチンの水中分散性と安定性を改善し、高濃度まで水中で利用できることで大きなORAC値を実現。Caco-2細胞でも抗酸化活性を評価しました。
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32種類の芳香族分子を比較し、極性・水素結合能・疎水性などと取り込み量の関係を解析。柔軟な水和多糖マトリクスという新しい包接像を提示しました。
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ボトムアップで形成したr-glucan NPsを再分散可能な粉末へ変換。高い水分散性、ゲスト包接能、局所構造を保ち、J774A.1マクロファージに対する特徴的な応答も確認しました。
DOIを見る ↗BIOMOLECULAR ACTIVITY & STABILITY
極限環境生物の知恵から、DNA・酵素・診断反応を制御する分子添加剤へ。
生物は、乾燥、高塩、低温などのストレスに適応するため、ベタインをはじめとする低分子化合物を細胞内に蓄積します。甲元研究室では、こうした細胞内低分子の化学構造に着目し、グリシンベタインを基本骨格とする双性イオン型分子や、その関連分子を合成して、生体高分子の構造・反応性・安定性をどのように変えられるかを研究してきました。
研究は、DNA二重鎖の安定性制御とPCR反応の改善から始まり、α-グルコシダーゼなどの酵素反応速度、耐熱性、耐塩性、基質選択性、凍結耐性、長時間反応での安定性へと展開しています。さらに、HRPを用いる発色反応の高感度化や、β-グルコシダーゼ反応の高収率化など、診断・分析やバイオプロセスへの応用も進めています。
FROM DNA CONTROL
グリシンベタインを基盤に双性イオン型コソルートを設計し、DNA二重鎖の融解温度に及ぼす影響を比較しました。アンモニウム部のアルキル鎖を変えるだけでDNA二重鎖の不安定化能が大きく変化し、安定なゲノム配列のPCR増幅条件を改善できることを示しました。PCR系では、DNA二重鎖の解離を助ける作用と、酵素反応環境を整える作用の両面から反応を捉えています。
TO MULTIFUNCTIONAL ENZYME CONTROL
α-グルコシダーゼを用いた研究では、ベタイン型代謝物アナログの添加によって、反応速度だけでなく、熱安定性、耐塩性、基質選択性が同時に向上することを明らかにしました。生体分子を化学修飾するのではなく、反応液へ添加するだけで機能を変えられることが、この分子群の大きな特徴です。
STRUCTURE–FUNCTION RELATIONSHIPS
アルキル鎖長、アニオン性官能基、親水性・疎水性などを系統的に変えた誘導体ライブラリーを用いて、構造と酵素反応促進能の関係を解析しました。ベタイン型分子では、アンモニウム部周辺の構造が活性化濃度に大きく影響し、アニオン部の違いについても比較することで、酵素機能を制御するための分子設計指針を蓄積してきました。
PROTECTION & STABILIZATION
ベタイン型代謝物アナログは、α-グルコシダーゼだけでなく、複数種類の酵素に対して凍結融解による失活を抑える作用を示します。また、活性な酵素へ添加した直後から反応を促進し、時間経過に伴う失活を抑えることも確認しています。特に希薄な酵素溶液や長時間反応で、安定化効果が重要になります。
DIAGNOSTICS & ANALYTICS
臨床検査やバイオ分析で広く用いられるhorseradish peroxidase(HRP)に対しても、ベタイン型代謝物アナログは反応速度を高めます。さらに、ABTS、TMB、DAB、AECなど複数の発色基質で発色感度の向上が確認され、診断反応の検出感度を高める添加剤としての可能性を示しました。
BIOPROCESS APPLICATIONS
β-グルコシダーゼ反応では、ベタイン型代謝物アナログの添加によって糖加水分解反応の収率が大きく向上しました。酵素の時間安定性を高めることで、バイオマス糖化やバイオエタノール生産など、長時間運転を必要とするバイオプロセスへの応用が期待されます。また、ベタイン骨格以外にアミンN-オキシドへも分子設計を広げ、関連する低分子添加剤による酵素反応制御を研究しています。
REPRESENTATIVE PAPERS
研究内容をもとに作成したオリジナルのGraphical Abstract風模式図とともに、研究の発展を紹介します。
双性イオン型コソルートの化学構造とDNA二重鎖の安定性を系統的に比較し、安定なゲノム配列のPCR増幅を改善しました。
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反応速度だけでなく、耐熱性、耐塩性、基質選択性まで、一つの分子添加によって同時に改善できることを示しました。
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誘導体ライブラリーと溶液物性の解析から、分子構造と酵素反応促進能の関係を検討し、分子設計の基盤を示しました。
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カルボキシベタイン、スルホベタインなどを比較し、アニオン性官能基が酵素反応促進へ与える影響を整理しました。
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凍結融解による酵素失活を構造・濃度依存的に抑制し、複数種類の酵素に共通して保護効果を示すことを明らかにしました。
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HRP触媒反応の速度と発色感度を高め、診断・分析に利用される酵素反応の高感度化につながることを示しました。
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前処理を必要とせず、反応途中に添加しても速やかに活性化が始まること、活性酵素の時間安定性を高めることを示しました。
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3種類のβ-グルコシダーゼで加水分解収率を大きく向上させ、長時間の酵素安定化が高収率化に重要であることを示しました。
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ベタイン骨格に限定せずアミンN-オキシドへ分子設計を展開し、低分子添加剤の構造と酵素反応促進能の関係を検討しました。
DOIを見る ↗AQUEOUS MOLECULAR DESIGN
分子構造―水和―生体分子機能をつなぎ、水を介して反応と安定性を制御する。
水は単なる溶媒ではなく、DNAやタンパク質の構造、安定性、分子認識、反応性を支える重要な環境です。甲元研究室では、ベタイン型双性イオン分子、スルホベタイン、アミンN-オキシド、さらにエーテル修飾カルボキシベタインなどを系統的に設計し、「どのような分子が水和を調節できるのか」を調べてきました。カルボキシレートをスルホネートへ置き換える、ベタイン骨格からアミンN-オキシドへ展開する、側鎖へエーテル基を導入する、といった分子設計を通じて、水中での分子のふるまいを比較しています。
同時に、こうした分子が本当に水和を変えていることを、DNA二重鎖の安定性、酵素反応速度、長期安定性、溶液物性解析などから評価してきました。DNA融解温度の変化は、水を介した間接的作用を捉える初期の指標となり、その後は反応速度論に加えて、DLS、浸透圧、水密度、CD、蛍光消光などを組み合わせることで、水和の違いと生体分子機能の関係を段階的に明らかにしています。ここでは、「水和を調整する分子の開発」と、「その水和を評価して機能へ結びつける研究」の二つの観点から紹介します。
MOLECULAR DESIGN
この研究群の第一の柱は、水和を制御できる低分子そのものを開発することです。初期にはカルボキシベタインを基盤として、アルキル鎖長や置換基を変えたベタイン型代謝物アナログを整備し、さらにカルボキシレートをスルホネートへ変えたスルホベタインへ展開しました。その後、双性イオン型ベタイン骨格だけにとどまらず、より異なる極性構造をもつアミンN-オキシドへ研究対象を拡張し、ベタインとは異なる水和環境でも酵素活性化が可能であることを示しました。さらにBulletin of the Chemical Society of Japanの論文では、側鎖へエーテル基を導入したalkoxybetaineを設計し、高水溶性・高水和・酵素長期安定化を両立する分子設計へ発展させました。
HYDRATION EVALUATION
第二の柱は、設計した分子がどのような水和状態をつくるのかを評価し、生体分子機能と結びつけることです。TetrahedronのDNA研究では、双性イオン型コソルートの分子構造の違いがDNA二重鎖の融解温度を変えることを示し、水を介した間接的作用の存在を示唆しました。続くα-グルコシダーゼの研究では、反応促進に有効な分子ほど、単分子として存在し、広く低密度な水和層を形成することが示されました。さらに、アニオン性官能基の比較、アミンN-オキシドとの比較、そしてBull. Chem. Soc. Jpn. のalkoxybetaine研究では、DLS、浸透圧、水密度、CD、蛍光消光などを用いて水和特性を解析し、水和の違いが酵素活性化や長期安定化の鍵になることを明らかにしました。
REPRESENTATIVE PAPERS
分子設計によって水和を調整する研究と、その水和状態をDNA・酵素・溶液物性から評価する研究の両面がわかる論文をまとめています。
双性イオン型コソルートの分子構造の違いが、水和環境を介してDNA二重鎖の融解温度を変えることを示した、水和研究の出発点となる論文です。
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ベタイン誘導体の単分子状態・自己会合・水和層の違いを、α-グルコシダーゼ反応促進と結びつけて示した機構研究です。
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カルボキシベタインとスルホベタインを比較し、アニオン性官能基を変えても類似した水和構造と酵素活性化を示すことを明らかにしました。
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ベタインからアミンN-オキシドへ分子設計を広げ、異なる水和環境でも酵素活性化と安定化が可能であることを示しました。
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エーテル修飾によって強い水和と高水溶性を実現し、その水和特性が酵素活性化と長期安定化へつながることを示した最新の分子設計研究です。
DOIを見る ↗水和数、局所水和、動的分子集合、難水溶性成分の可溶化などについて、さらに詳細な研究を進めています。未発表の結果を含むため、これらの詳細は論文公開後に順次更新します。
COMMON APPROACH
天然多糖や細胞内低分子の構造と機能を、新しい分子・材料設計の出発点にします。
分子構造を系統的に変え、どの部分が活性、安定性、包接、溶解に寄与するかを調べます。
分光分析、粒径測定、反応速度解析などを組み合わせ、構造・物性・機能の関係を考察します。
食品、化粧品、診断、バイオ触媒など、具体的な利用場面を想定して研究を展開します。
研究成果ページでは、研究室の成果を種別・年代別に検索できます。