研究内容
生物学科/植物細胞工学研究室
今井博之 教授
博士(理学)
1963年,北海道出身
総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程 専攻と研究内容/ 植物細胞工学・植物生化学。植物のスフィンゴ脂質代謝の仕組みの解明。ナガエツルノゲイトウの駆除に向けた植物細胞工学的研究。
植物に存在する謎めいた脂質の代謝デザイン。
特定外来生物に指定されているナガエツルノゲイトウは、地球上最悪の侵略植物といわれています。ナガエツルノゲイトウは、南米原産のヒユ科の水草で、茎や節の断片から容易に再生して水上と陸上の両方の生育地に侵入するため、いったん定着すると、河川、ため池や水田だけではなく、水辺の環境をも破壊します。
現在まで、温帯・熱帯地域の世界30か国以上で侵入・被害の報告があり、兵庫県でもその拡散防止と駆除が強く求められていますが、今のところ、この植物を根絶やしにする有効な手立ては見つかっていません。本研究では、ナガエツルノゲイトウの侵略的強害性を特徴づける代謝生理の分子機構を遺伝子発現のレベル理解し、将来的にこの植物の代謝系を標的とする除草剤開発に向けた環境問題対応型研究への展開を目指します。
ナガエツルノゲイトウは種子をつけないため、挿し芽栽培や、組織培養によって実験試料を維持することが求められますが、初年度である令和5年度は、人工気象器での無菌的栽培系を標準化することができました(下の写真)。
また、無菌栽培された植物体から、葉、茎、根、節の切片を調製し、濃度の異なる植物ホルモンを含んだ人工寒天培地において組織培養する方法を検討しました(下の写真)。
その結果、節の切片からのカルス(細胞塊)が高頻度に得られました。さらに、この植物の節からは、活発に発根がみられたことから、節での遺伝子発現を次世代シーケンサーによって解析しました。
その結果、約37,000の遺伝子のうち、発根している節で発現が高い約10,000個の遺伝子を見つけました。今後は、この遺伝子データを詳細に検討して、発根過程での代謝産物の動態を理解し、除草剤開発のための代謝工学に利用する基礎データを整備したいと考えています。
私たちの研究室では、肌のうるおい成分として知られている“セラミド”という脂質に注目して、この脂質が植物の中でどのように生合成されるのかという「セラミド関連脂質の生合成」の研究を進めてきました。セラミド関連脂質は、スフィンゴ脂質ともよばれ、ギリシャ神話に出てくる謎かけ怪獣”スフィンクス”に由来するといわれています。
植物のセラミド関連脂質生合成に関わる酵素遺伝子の解析は、主としてモデル実験植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いて行われてきました。2000年代以降、セラミド関連脂質の生合成に関与するほとんどすべての合成酵素の遺伝子がシロイヌナズナによる研究で明らかにされ、この脂質の植物分野での基礎研究が大きく進んでいます。私たちの研究室でも、トランスジェニック植物によるセラミド関連脂質シグナリングの解析や、植物細胞の蛍光イメージング、質量分析を基盤とする網羅的なセラミド関連脂質生合成物の解析(スフィンゴリピドーム解析)など、最新の技術と手法で、セラミド関連脂質が植物の生理機能にどのように関わっているのかの謎に迫っています。
現在、シロイヌナズナで解明されたセラミド関連脂質の遺伝子機能解析の成果を基礎として、セラミド関連脂質生合成に関わるトランスジェニック植物を利用し、医薬品原料や機能性食品などの有用物質を生産する技術開発の研究を進めています。