研究内容

西尾千尋(甲南大学文学部講師)

人と環境の関係を考える生態心理学と、生涯の変化に関する発達心理学が専門です。
特に乳幼児の運動、認知、遊び、表現などの研究をしています。


生態心理学とアフォーダンス

赤ちゃんや小さなこどもの運動や行為の発達研究をしています。こどもが遊ぶ姿を見ていると、水や砂といった素朴なもので飽きることなくずっと遊んでいます。そんな時、こどもは実際にどんなことをしているのでしょうか?「水」を用いてできる行為を挙げてみると、例えば、浴びる、足を浸す、手ですくう、容器に入れる、運ぶ、垂らす、流す、飲む、など色々な可能性があります。このように、人(だけではなく動物も)が環境の中で発見する意味や行為の可能性のことは「アフォーダンス」と呼ばれています。この概念を作った生態心理学は、人や動物と環境の関係を考える学問です。生まれてきた赤ちゃんは、どうやって、どんな意味を周囲に発見するのでしょうか?その過程が知りたくて主にフィールドワークで研究をしています。


動くこと、歩くことの発達

個人差は大きいですが、生後1年半前後で赤ちゃんは歩けるようになります。その前にも寝返りでコロコロと転がったり、背中で移動したり、いろんな形でハイハイしたり、人の動きはとてもユニークです。自分の身体がどんなふうに動かせるのか、どうやって環境との関係を調整していくのか、という学習の進み方を研究しています。

著書:『歩行が広げる乳児の世界』https://chitosepress.com/books/978-4-908736-38-4/
エッセイ:https://chitosepress.com/2024/10/25/5847/


アーティストとの協働企画

学部時代は芸術系の大学で、アートプロジェクトや作品制作を勉強していました。その時にずっとテーマとしていた、それぞれに異なる身体をもつ人が、どういうふうに世界を認識しているのだろう、という問いから心理学の世界に足を踏み入れて、赤ちゃん研究に出会いました。現在は、アーティストと協働で、こどもや子育てをする人が、少し普段と異なる体験ができる機会を提供しよう、一緒にこどもが見ている世界がどのようなものか見てみよう、という趣旨でワークショップなどを行なっています。

https://www.konan-u.ac.jp/kihs/news/archives/4255


略歴

2023年4月 – 現在 甲南大学, 文学部 人間科学科, 講師
2020年4月 – 2022年3月 中京大学, 心理学部, 任期制講師
2019年4月 – 2020年3月 早稲田大学, 人間科学学術院, 招聘研究員
2018年7月 – 2020年3月 東京大学, 社会科学研究所, 学術支援専門職員
2012年4月 – 2018年9月 東京大学大学院, 学際情報学府, 博士課程
2009年4月 – 2012年3月 東京藝術大学, 音楽学部音楽環境創造科, 教育研究助手


研究論文・書籍等

Nishio, C. (2024). Infant walking and everyday experience: Unraveling the development of behavior from motor development. New Generation Computing, 42, 1115-1127. https://doi.org/10.1007/s00354-024-00281-2

根ヶ山 光一・外山 紀子(2024). からだがかたどる発達 : 人・環境・時間のクロスモダリティ 福村出版(分担執筆)

西尾 千尋(2023). 発達のリアルな姿を捉える枠組みとしての発達カスケード ベビーサイエンス, 22, 16. (コメント論文)

外山 紀子・西尾 千尋・山本 寛樹 (2024). 歩行が広げる乳児の世界 ──発達カスケードの探究── ちとせプレス

西尾 千尋・青山 慶 (2023). 子どもの描画行為における二重性知覚の発達──なぐりがきにおける調整行為からの検討── 生態心理学研究, 15,47-66, https://doi.org/10.24807/jep.15.1_47

Nishio, C., Nozawa, H., Yamazaki, H., & Kudo, K. (2023). Putting things in and taking them out of containers: a young child’s interaction with objects. Frontiers in Psychology, 14, 1120605. https://doi: 10.3389/fpsyg.2023.1120605

西尾 千尋 (2022). 移動の発達研究への展望──Karen Adolph の生態学的アプローチとは── 生態心理学研究, 14, 35-50. https://doi.org/10.24807/jep.14.1_35

西尾 千尋・石井 千夏・外山 紀子 (2021). 歩行開始期において乳児が物と関わる行動の発達──保育室での縦断的観察に基づく検討── 認知科学, 28, 578-592. https://doi.org/10.11225/cs.2021.048

西尾 千尋 (2019). 乳児の独立歩行の発達の生態学的研究 ──移動を含む行為の発達と生活環境の資源── 東京大学大学院 博士論文

西尾 千尋・工藤 和俊・佐々木 正人(2018). 乳児の歩き出しの生態学的検討──独立歩行の発達と生活環境の資源── 発達心理学研究, 29, 73-83. https://doi.org/10.11201/jjdp.29.73(2019年度発達心理学会賞受賞)

西尾 千尋・青山 慶・佐々木 正人 (2015). 乳児の歩行の発達における部屋の環境資源 認知科学, 22, 151–166. https://doi.org/10.11225/jcss.22.151